自滅系起業家を指す新ワード「苦業家」とは?

2020/01/18 09:35
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ピックアップ記事: “No More ‘Struggle Porn” by Nat Eliaso

起業家は苦しい日々を長く過ごします。結果が出るまで数年単位の辛抱が必要です。根をあげたくなる時期もあるでしょう。ところが、最近ではこうした苦悩する日々に美徳を感じ、結果以上に苦しいプロダクト開発に憧れてしまう「苦業家」が登場しているようです。

苦業家を語るには、彼らの本質である特有のポルノ感覚を知る必要があります。

「Struggle Porn」という言葉を知っているでしょうか。直訳すると「苦悩ポルノ」。最近、起業家精神を美化するための1つのプロパガンダ用語として使われているようです。

苦悩ポルノを意訳すると、ストレスで苦しんでいる自分の姿を好み、一生懸命やっている姿を評価軸に生きているスタイルです。具体的には、先行きのない物事に対して自分自身を強く駆り立て、世間一般から自分の身を犠牲にするほど一生懸命働くように急かされる要求に対し、必死に応えようとする強迫観念を指します。

最大の問題点は「苦悩していると感じているなら、自分は正しいことをしている」と思い込んでしまう点です。何か新しい挑戦をし続け、苦悩するのが美徳となっています。

そして苦悩ポルノを実現するために必要なものは「ハッスル」。お金を稼ぐよりも、自分の価値観に合った働き方はハッスルと呼ばれます。ハッスルは、生計を立てることを優先する働き方「ジョブ」と対比される用語となっています。

決してハッスルは悪いことではありません。自分の熱意を注げることに時間を費やし、趣味として楽しんでいたものに本気で挑戦して仕事にしていくプロセスは当たり前になってきました。今後、こうした働き方は普通になってくるでしょう。一生懸命に熱意の持てる領域に挑戦することは評価されるべきです。

ただ、苦悩ポルノの考えが入ると副作用が発生します。

苦悩ポルノの問題点

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ポルノに取り憑かれている人にとっての正常な状態とは、進歩に苦悩しているプロセスそのもの。数値指標などはあまり関係なく、プロセスに満足してしまっているため、終わりなく徒労な物事に取り組みます。終わりがなくなるのです。

失敗しているように感じることこそが進歩。自分自身が一生懸命働いていることを感じられていれば良いので、たとえば収益指標などを見る必要がなくなります。

個人でやる分には一切問題がありません。自由に趣味や小さな仕事へ多く取り組み、満足するまで勤しめばよいでしょう。しかし、資金調達をしたりして、責任が伴う起業家になると話が変わってきます。

苦悩ポルノに陥っている起業家は、数字が出ずに苦悩し続ける自分の姿に酔いしれて時間を過ごします。いざ次の資金調達が必要な場合は、苦悩したプロセスから見出した将来の成長性だけを語り投資家を説得します。ただ、スタートアップにとってはトラクションが出ているかが重要。最終的には下請け業務に徹する中小企業になるか、倒産してしまいます。

苦業家の登場

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このように、苦労しているから何かを成し遂げていると感じ、目標をいつまで経っても達成しきれない起業家を「Strugglepreneurs(Struggle + Entrepreneur)」と呼びます。日本語では「苦業家」とでも訳せるでしょう。

苦業家は「忙殺ポルノ」にも陥っている特徴を持ちます。「トラクションを得るのが難しい。それでは何か他のことを試してみる必要があるかもしれない」と考える代わりに、「これはまだうまくいっていないが、もし苦労し続ければ最終的にはうまくだろう」と考えてしまうのです。とにかく自分を忙しくしていれば、いずれは報われるだろうと考え、時間を費やしてしまうのです。忙殺ポルノは、苦悩ポルノを満足させる条件となります。

ピックアップ記事では、SNS系で活躍するビジネス系インフルエンサーが苦業家を大量生産しようとしている現象に警鐘を鳴らしています。「一生懸命働け、嫌いな仕事はいますぐ辞めろ、お前ならできる」と伝え、成果ではなく、苦悩するプロセスを美化するメッセージを発し続けるのです。

ここで留意すべきは、一生懸命働くことは決して悪いことではない点です。あくまでも記事では、明確なロードマップとマイルストーンの持つことなしに時間を過ごす危険性を指摘しています。自分が苦悩しながら働いていないことに罪悪感を持つ苦悩ポルノの感覚は2次的に持つべきだと語られています。どれだけ一生懸命働いているかは、起業家が作り出している価値や進歩の良い指標とはならないと述べています。

最終ステージ、「構ってちゃん症」

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快適さは起業家にとっては「死」に値し、平凡な状態は「悪」であるのが苦悩ポルノの世界の常識。恥ずかしなら筆者は、3年前まで起業していた時に同じ感覚を持っていました。正確には苦悩ポルノをよりこじらせた「構ってちゃん症」になっていたと、今になって思います。

結果がなかなか出ないことであったり、何か周りからそっと手助けが欲しい時、頑張っている姿をさりげなくみせて評価されたい「構ってちゃん症」に陥っていたと、最近になってようやく客観視できるようになりました。

世間から評価される武器が何もないことを劣等感に持ち、一生懸命何か取り組んでいる姿だけしかアピールポイントがなかったことが要因でした。なにより、自分が困っている・疲れている姿勢を他人が見て、周りの人の方から支援がやってくる、Giveをもらう姿勢になっていた最悪なマインドセットが失敗の主要因だった感じます。ほんとうに恥ずかしい話ですが、苦業家の最終形態になっていたのが過去の私であったと思います。

それではどうすべきだったのか。自己分析をして2つほどアイデアが浮かんだので書き記します。

  • 先輩起業家から聞かされる苦悩自慢には耳を塞ぐ。起業家 = 苦悩と自分を思い込ませるべきではなかった
  • ざっくりでも悩みを相談できる相手を多く見つけることが先決。日頃から人に会い、いざとなったらヘルプを求められる当てを多く持っておくべきだった

起業イベントやブログ記事、Twitterを覗けば、先輩起業家の苦悩話がたくさん落ちています。こうした話は笑い話となり、起業家の通過儀礼のように語られます。たしかに誰もが通る道だと思うのですが、苦悩することを起業家として踏み出した証や、美徳として捉えるべきではなかったと思います。また、避けられる苦悩は全力で避けるべきだったな、とも感じます。

最初の起業であったため、起業家として歩を進めていることの裏付けとして苦悩を捉えていましたが、無理に苦悩する姿を持つべきではなかったと今では感じます。たとえば全く生産性ではないにも関わらず、深夜まで仕事をしたり、悩んでいる姿をオフィスで見せられても周りの雰囲気が悪くなるだけでした。

2-3人しかいない企業規模では1人が徹夜するだけで成果が簡単に倍増します。しかし、外注できる仕事は外に投げるべきて成長スピードを伸ばすべきだと思います。スタートアップにとって資金調達後はスピードが命になってくるため、適切な予算内でクラウド人材を利用したりすべきでした。起業家の苦悩と、必須にはならない仕事を結びつけるべきではありませんでした。

また、お金がないとは言え、毎日1食だけで過ごしたり、オフィスで貰った残飯だけで過ごすような生活を自分に強いるべきではありませんでした。当時はほんとにお金がなかったため、そして給与を減らして会社を生かすための仕方ない選択とはいえ、やはり悪手でした。

なにより、こうした内容をべらべら他人に武勇伝のように話をして、起業家としての生き様を実感・納得している姿勢は論外でした。すぐにでもプロダクト収益を上げて、QOLを向上できる策を練る方向性を考えるべきでした。

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評価されるべきはプロダクトの成長指標のみ。弱みを見せつつ、同情を買うような、過去の私みたいな起業家は必ず自滅します。一生懸命働く必要はありますが、それが目的になっては起業家として死にます。

無駄な苦悩を背負っては、長距離マラソンのように走り続ける必要のある起業家として死にます。適度に力を抜くことも起業家の仕事の一つだと今では思います。必要な結果を残すために課せられる苦悩は発生しますが、それ以外の苦悩をいかに背負わずにスタートアップを成長させるかが起業家スキルの大切な要素。何でもかんでも無理すれば良いわけではありません。

苦悩した上で大きな成功を勝ち得た先輩起業家っぽい生き様を描きたかったのかもしれませんが、現実は単なる「構ってちゃん」になっていました。弱いリーダーだからこそ手を差し伸べてもらうだろうと幻想を抱くべきではありませんでした。こうした苦業家の姿勢は、セルフブランディング的にも最悪だと言わざるを得ません。

最後に、苦業家は自己満足で終わることが常です。特に私のように構ってちゃん症に取り憑かれると、永遠とやってくることのない他人からのヘルプを求め、結局自己完結の世界で自滅します。そして、苦業家はスタートアップにとっての自殺に通じます。全くもってカッコイイものではありませんし、評価されるものではありません。いかに周りを巻き込みつつ、通る必要のない苦悩を避けながら最短でプロダクトの成長にたどり着けるかが肝となります。

私はシリコンバレーで大きなチャンスをもらいながら、結局自滅しています。当たり前なことですし、恥ずかしい内容ですが、これから起業される方が同じ道を通らないように記しました。少しでも参考になると嬉しいです。苦業家にならないように気をつけましょう。

自滅系起業家を指す新ワード「苦業家」とは?